映画の未来へ~第4回TAMA映画賞訪問記⑦

 そして、第4回TAMA映画賞授賞式のラストを飾るのは、最優秀作品賞『この空の花~長岡花火物語』の大林宣彦監督。

 おなじみの映画の予告編がスクリーンに流された後、名前を紹介された大林監督。まずはいつものように純白のスクリーンを慈しむように“アイ・ラブ・ユー”マークを捧げてから、賞状授与のために舞台中央に立たれた大林監督は、心の底から嬉しそうな、にこやかな表情をされていました。
 「平和への願い、未来への希望を祈る想いとイマジネーションがずっしり詰まったこの作品は、大震災の体験をとおして生き方を見つめ直している私たちに、生きることの意義を改めて喚起し、多くの人に勇気を与えてくれました。第4回TAMA映画賞において、映画ファンに最も活力を与え、最も観客を魅了した作品として、ここに表彰します。」と授賞理由を読み上げられて賞状と多摩焼きで造られた記念像を渡されると、受け取った記念像をトントンと優しく撫でられていました。

映画の未来へ~第4回TAMA映画賞訪問記⑦
(記念像は、多摩市の土で焼いた多摩焼きでできています。男性と女性をモチーフにしたもので、今回、特別に焼いていただいた物だそうです。地元の陶芸家である中村さんの作品で、全て、ひとつひとつ手作りで創られているとのことです。)

 受賞に際してのコメントを司会者から促されて、
 「この人間の世に、映画が誕生したという奇跡、その奇跡を信じて、その軌跡に心から敬意を表して、22という数字の歳月を重ねて来られたTAMA映画フォーラムの皆さん、そして、会場を埋め尽くした映画への愛に溢れるみなさん、そしてまた、現代の日本映画の未来につながる授賞された皆さん、映画をこしらえてこしらえて、いつのまにか老人と言われる歳になってしまいましたが、この中に、私も仲間に入れさせていただいて、今日はありがとうございます。私も半世紀前から、『サイタマノラッパー』のようなインディーズでありました。何が無くても自由がある、芸術というものは自由にこしらえるものだということで、その自由を信じて映画を創ってまいりました。今度の映画も、私と50年ともに映画を創ってまいりました家族でもありプロデューサーでもある大林恭子や娘の千茱萸をはじめ、この家族が、2011年の夏、映画創りのために訪れた長岡という里で、今こそ、スタッフ・キャストを超えて、人として参加をしたい、人としてこの映画の現場にいれば、きっと何かが見つかるはずだと信じて集まってくれた映画の仲間たち。そして、更には、私たちがワンダーランドと呼んだ、この3・11で見失った私たちの心を、未来に向けて、このように進んだら良いのだと筋道を示してくださった長岡の志。その志を通じて、この映画を一緒に創ってくれた長岡の人たち。自主製作、自主上映を目指して、この4月から上映を始めて、今でも毎週末どこかで封切が続いているという。そういう映画が、今日、この日に、このTAMA映画フォーラムにたどり着いて、いえいえ、熱く熱く迎えていただいて、この場で皆さんにこうしてご挨拶ができて、そして、こんな素敵なご褒美をいただいて、映画も観ていただけるということは、私にとっては、まさに映画の奇跡が、私の人生に舞い降りてきました。私を支えてくれた、この映画を創ってくれた、今日ともに受賞した私の家族に心からの敬意と感謝を捧げたいと思います。皆さん、どうもありがとうございました。」と長文のメッセージで満員の客席に喜びを伝える大林監督。そして、拍手が鳴りやまない客席。この日の会場には、長岡の森民夫市長からも祝電が届けられていました。

 「撮影に入られる前に東日本大震災があり、脚本を大幅に見直されたと伺っているのですが。」と司会者に尋ねられて-
 「3月11日のときは、私たちの心のスクリーンが真っ白になって、これまで信じていたことが全部覆されました。今でも戸惑っている。将来をどのように生きれば良いのか、それが全く分からなかったとき、しかし、私たちは生きているということは表現することだから、映画を創ることだということで、ともかく映画を創り続ける、シナリオは毎日毎日書き変える。映画がとりあえず完成したのが、今年の2月ですけれども、いまだにシナリオを描き直し続けています。この映画にはEND Markをつけていないのでね。それがまだ続いています。」

 続いて、「震災の時に福島の高校生の皆さんと交流があったと伺っているのですが。」と聞かれて、
 「私たちは、想像力をもって、あえて東日本の被災地には足を運ばず、同じ中越大地震という震災を体験し、ようやく復興を遂げたという長岡で撮影をしていたのですが、映画の中に、南相馬の少年が登場します。その少年のふる里を、映画の撮影後に訪れました。尋ねてみましたところ、皆さんも覚えていらっしゃいますか、瓦礫の中、桜の枝の1本に桜の花が咲いた。人間があまりにも小さいから、大震災にあったけれども、これは自然の理であって、こんなに小さな桜の花ですら、自然を守って、綺麗な花を咲かせている。私たち人間の心も、この桜と一緒に、命を大切にして生きようと、その高校の先生が、壊れた学校の校舎に、瓦礫に花の絵を画く『花瓦礫』という授業を始められたのです。大人は、瓦礫はごみですから、瓦礫は片付ければ良いと思っているのですが、子供にとっての校舎の瓦礫は、愛おしい学びの記憶が残るものですから、この校舎の痛みと共に、自分たちは復興していくのだという、この姿勢がまさに長岡の痛みを忘れぬ、そこから学んだ知恵で生きていこうということに結びつくものですから、私はこの『花瓦礫』とこの映画を一緒にして、全国の上映地を巡ろうと想いました。そこで、その先生に手紙を書こう思いましたら、住所の最後が、“字元木”というのです。これは、これから映画をご覧になったときに、この映画の主人公が“元木花”という名前なのですね。偶然のように、『字元木の花瓦礫』だったのです。あっ、この映画は私たちが創った映画ではないな。何か、上の方にいる人が、大地震を起こしたり、津波を起こしたり、あるいは、桜の花を見事に咲かせたりする。そんな自然の意志が、この映画を創らせたくれたんだなと、そんな風に思いました。」と福島との繋がりについて語る大林監督。

映画の未来へ~第4回TAMA映画賞訪問記⑦
(震災と原発事故直後の2011年5月、福島県郡山市開成山公園に咲く『時かけ』の桜花)

映画の未来へ~第4回TAMA映画賞訪問記⑦
(『この空の花~長岡花火物語』の上映会場では、すっかりお馴染みとなった花瓦礫パネル)

 映画祭のパンフレットの中に寄稿されているメッセージの中で、「これはやっぱり映画だったのですね。皆さんありがとう。」という言葉で締めくくられていることについて、この言葉に込めた想いを、「3月11日に、いままで信じていた劇映画、そんなものは創っても仕方がない、となりました。しかし、同時に、エジソンやルメールが映画を発明したときに、この芸術は、無限の可能性があったはずなのです。それが、いつの間にか商業主義の中で、2時間の劇映画とドキュメンタリーという、たった2つの分野しかなくなってしまったというのは、何とも勿体ない。もっともっと色々な可能性があるはずだと思いまして、例えば、私が長岡で見聞したことと、それに対して想像力でふくらませた随想というものを織り交ぜて、徒然草の様な、あるいは、私は大学で映像社会学という授業をやっていますので、映像社会学の先生が、論文を映画で描いたとしたら、そんなものは映画ではない。そういうことで、ともかく3・11の混沌を一所懸命に映画にしました。その気持ちは必ずや皆さんに伝わるだろうと信じてはおりますが、もはやこれを映画ということで認定されて、最優秀作品賞までもらえることになるということは、考えてもおりませんでしたけれども、本当にありがたいことです。」

 この日、最優秀新進監督賞を受賞された沖田修一監督の最新作、現在公開中の『横道世之介』も、上映時間が2時間40分となる長編大作です。作品に合わせて、様々な上映時間の映画があれば、より楽しみが広がりますね。

 映画『この空の花~長岡花火物語』の上映は、この授賞式の後にかけられます。そこで、大林監督からこれから作品を観る来場者に向けて、映画の紹介とメッセージが贈られます。

 「長岡という里は、戊辰戦争で敗れた里です。そのときにもらった支援の米百俵。これを売って、学校を建てて、庶民の子を学ばせて、その庶民の子が長岡を復興させました。復興とは、物、金のみではない、むしろ人である。人を育てよう。その精神なのですね。それが太平洋戦争後の空襲の後も、長岡では花火を打ち上げることで、希望を持たせた。そして、中越大地震の後には、フェニックスという花火を打ち上げることで、子供たちの未来に希望を持たせる。そういう信念で支えられてきた。まさにそれが、これからの復興は、物、金だけじゃない、美しい人、未来に希望を持つ人間をこそ育てよう、という長岡の指針をこそ、私たちは3・11後の映画としました。これは、普通の劇映画にはなりません。例えて言えば、ピカソのゲルニカです。ご存じですよね。あれはピカソの祖国スペインが1939年にドイツ軍の攻撃で灰塵に帰した。そういう記録なのですが、リアルな記録は風化します。なぜならば、目を背けたくなる、観たくない、忘れたい、そういうことが多いからです。日本でも、多くの戦争や震災などの悲劇が風化しました。この3・11もまた風化してしまうかもしれない。だから、私は、決して風化をしないジャーナリズムが必要ではないかと思ったのです。まさにゲルニカは、芸術です。不思議で、面白くもあって、美しい。だからこそ、人々はあの戦争をいつまでも忘れない。小さな子供ですらが、あの絵を見ながら、「このお婆ちゃん、何でこんな顔をしているの。戦争があって殺されたの。ああ、嫌だな、怖いな。だから戦争のない世界を創ろうね。」というように、平和への願いは風化しません。そんな訳で、私はこの映画は、ゲルニカに倣って創りました。大人から見ると、子供がかった映画にも見えるだろうし、また、難しいような映画に見えるかもしれませんが、この映画を観てくれた4歳の子供が、お父さんにこう言いました。「お父さん、僕は、いま、生きているの」。このひと言で十分です。そのことから生きているということのありがたさ、大切さ、そして、亡くなっていった人たちへの想いを、その子が育つと共に、どんどん風化させないで記憶していってくれれば、いつかこの映画の山下清さんがおっしゃったように、「世界中の爆弾を花火に代えて打ち上げたなら、世界から戦争なんてなくなるのにな。」という、そういう平和を祈るような世界を築くことができるかもしれない。そういう時代が来た日にこそ、この映画にEND Markをつけようと、そう想って創りました。どうか皆さんも小さな子供が、あのゲルニカの絵の前に立ったような気持ちで、「不思議だな、何だか面白いな、でも、とっても綺麗だな」というような気持ちでこの映画を観てくれたならと思います。これが、芸術の役割、芸術の風化しないジャーナリズムだと思います。どうか、よろしくお願いいたします。」

 スクリーンに向かって「長岡の仲間たち、良かったね、一緒にこの映画を創って。これが、映画の美しさと力だね。ありがとう。」と遠く離れた長岡の仲間に向けて、メッセージを届ける大林監督。

 最後に、今後の抱負とご予定を聞かれた大林監督。
 「実は、つい1週間ほど前に、僕はまた長岡に行きまして、その『花瓦礫』をテーマに、福島の高校生と長岡の高校生の劇映画を既に創ってしまいました。」と、電撃的な新作発表があり、場内は拍手に包まれます。
 「そして、私が20年間やっております北海道芦別の映画学校で、20年を記念して、『野のなななのか』という映画をクランクインをいたしました。そんな訳で、ひい爺ちゃんはまだまだ元気でございます。よろしくお願いします。」

(『野のなななのか』の公式サイトはコチラから)

 大林監督からのサプライズな2作品のプレゼント。
 この時点では、芦別での新作は、昨年の『星の降る里・芦別映画学校』の場で制作発表があった作品『野のなななのか』は知っていたのですが、福島&長岡で撮られたという新作は、福島の『花瓦礫』を題材にした作品というお話しだけでしたので、『この空の花~長岡花火物語』の続編かな?と思ったりしていたのですが、後に、AKB48さんの新曲『So long!』のMVであることが分かりましたね。MVでありながら、67分というちょっとした短編映画にも匹敵するこだわりの力作となった本作。MVの発表に合わせて、大林監督からは「AKBの諸君と仕事することが楽しくて、アイディアがどんどん沸いてきてね、なんと64分の劇映画を作ってしまいました! 僕はもう、彼女たちのひいお爺ちゃんかもしれない。若い人たちに、ひいお爺ちゃんの体験したこと、学んだことの全てを伝えれば、彼女たちがまたそこから新しい未来を作ってくれる力になるだろう。」とのメッセージを寄せられていますが、実際に映像を拝見させていただいたところ『この空の花~長岡花火物語』と同じロケ地が登場したり(中越高校の先生役が高嶋政宏さん!)、福島県南相馬市からの転校生(松井珠理奈さん)、一輪車こそ自転車に変わっていますが、正に映画の世界観そのままに再現されていましたね。一部では、大林宣彦監督とAKB48との意外なコラボレーションに否定的な意見もあるようですが、作品中の「人間らしく幸せに生きることが、どんどん難しくなっていくこの時代。しかし若者たちよ、夢を持ってほしい。君たちは未来に生きる人たちだ。その未来を君たち自身の夢で創ってほしい。きっとできるよ。それを信じて夢を持て、希望を持て、あきらめるな、勇気を持て。これから生まれてくる子供たち。その父となり母となる君たちよ、僕は心から誇りに想うよ。君たちと一緒に生きることができて、本当に嬉しかった。ありがとう。So long!」というメッセージにこめられているように、大林監督が映画『この空の花~長岡花火物語』に込めた想いを、一番伝えたかった南相馬の少年のような次世代を生きる若い人たちに届けたいというお気持ちがあったからこそ引き受けられたのだと思います。このMVを通じて、多くの方に『福島の花瓦礫』を知っていただくことができますし、そう言った意味で、通常のMVやPVにはない、メッセージ性の強いものとなっています。このMVが、本当に作品を観てもらいたい若い人たちに、『この空の花~長岡花火物語』に触れてもらえるきっかけとなれば、嬉しいですね。

映画の未来へ~第4回TAMA映画賞訪問記⑦
(こちらがMVが納められた『So long!』のCD。ジャケット裏面を良く読むと、“MV”ではなく“The Movie”と…笑)

 授賞式典後の記念撮影では、ベテランの少年らしく、受賞者のまとめ役として、カメラマンの注文など場を仕切られていた大林監督。受賞者一同が集まった際には、最優秀男優賞を受賞され、長岡映画『聯合艦隊司令長官 山本五十六』で主演を務められた役所広司さんと、長岡コンビでガッチリと固い握手を交わされていました。

 この日の授賞式には、新進女優賞を受賞された元AKB48の前田敦子さんや橋本愛さんが登壇されるということもあり、会場には10代、20代の若い人たちも数多く来場されていました。授賞式に引き続いての『この空の花~長岡花火物語』の上映では、これまでの劇場公開ではあまり見かけることのなかった若い人たちにも、作品に触れていただく貴重な時間となりました。監督が一番伝えたかった未来を創る若い世代の人たちに、この作品が届けられたことは、監督も嬉しかったでしょうし、先日発売されたAKB48さんの新曲『So long!』のMV制作と同様、監督の想いを届ける素晴らしい機会になったと思います。

 さて、今回の受賞対象者は一般的な映画賞とは違い『大林宣彦監督、及びスタッフ・キャスト一同』となっており、ボランティアやエキストラも含め、この作品に携わった全ての人に対して贈られた賞です。エキストラとしてこの作品のほんの一部でもお手伝いができたりょうとしては、今回の受賞は、自分のことのように嬉しく思います。会場には、恭子さんや千茱萸さんらとご家族で駆けつけられ、エキストラ参加者や馴染みのある人たちが、想い想いに会場ロビーでお祝いの言葉をかけられていました。

映画の未来へ~第4回TAMA映画賞訪問記⑦

 年が明けてからも、いわきぼうけん映画祭や水戸映画祭など、各地の映画祭で毎週のようにかけられている『この空の花~長岡花火物語』。
 END Markの付けられていない『この空の花~長岡花火物語』の脚本も、まだまだ毎日書き直されているとのこと。今後は、パールハーバーでの長岡花火打ち上げを加えた続編があったりするかも!?

 花の種は、まだまだ日本各地に蒔かれていきそうですね。

(りょう)


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2013年03月17日 Posted byひがしざわ  at 08:00 │Comments(1)未来に紡ぐ

この記事へのコメント
TAMA映画祭長編レポート、楽しく拝見いたしました。ありがとうございます。
授賞式の後、「この空の花」エキストラ出演者三人で祝杯をあげたのは良い思い出になりました。
りょうさんの取材力、情報の豊富さには脱帽です。
私も会場にいましたが、とてもとても。
ぜひまた、イベント等でお会いした時には、お話し聴かせてください。
Posted by Ken at 2013年06月05日 21:58
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