エキストラ虎の巻

 今日で東日本大震災から3度目の3月11日を迎えました。
 釜石の皆さん、元気にされていますでしょうか。
 震災のなかを生き抜いてきた人たちには、ありがとうと伝えたい。
 まだまだ復興道半ば-
 これからも被災地に想いを寄り添えていきたいです。



 さて、映画やドラマの撮影現場では、スタッフやキャストだけでなく、数多くのボランティアエキストラが大活躍しています。本ブログの生みの親である映画『転校生~さよならあなた』でも、撮影時は、多くの地元ボランティアスタッフやボランティアエキストラに支えられ、作品が完成しました。
 近年は、各自治体のフィルムコミッションでも、作品の誘致とあわせてエキストラの登録や募集が盛んに行われています。今クール、蓮佛美沙子さんがヒロイン役で出演されているTBS系金10ドラマ『夜のせんせい』でも、撮影期間中は、たくさんのボランティアエキストラが募集されていました。
 今日は、そんなボランティアエキストラの虎の巻を、自身の体験を中心に、ご紹介したいと思います。映画とテレビドラマでは、撮影の規模も含めて、流れが異なるので、今回は、テレビドラマの場合を紹介させていただきますね。

 ボランテイアエキストラの出動依頼は、事前の申し込みに基づいて、メールのち確認の電話連絡、電話のあと集合場所等の詳細のメール送信と流れは様々ですが、TBSのドラマの場合は、基本的に非通知の電話にて連絡が入ります。どうやら2回電話を取れないと、次の人に順番が回されてしまう法則があるようです(汗)
 連絡の際、「引っ張りをお願いしても良いですか」と言われたら、この「引っ張り」とは、同日の次の現場にも引き続き参加できないかのお願いです。自分は、1日3現場、4現場と参加をお願いされた事もありました。

 まずは集合場所から。当たり前の話しですが、初めての場所に行くときは、時間に余裕をもって。ここで大切なのは、指定場所が広い敷地だったり、入口が多数あるような施設の場合、具体的な集合ポイントを、連絡が来た際に聞いておくことです。(「行けばそれらしい人が集まっているので分かると思います。」と言われてしまうこともありますが・苦笑)。
 そして、当日。時間どおりに集合場所に行っても、前の現場が押していて、撮影隊が来ず、連絡も特になしに、30分以上待たされることもあります。その場合でも、勝手に判断して帰らないように。心配な場合は、集まっているエキストラの方で誰かが代表して、事前に緊急連絡先として指定されたスタッフの携帯電話に連絡をしてみてください。(押しているぐらいですから、忙しくて出てくれない場合もありますが)。もちろん、自分が時間に遅れそうな場合は、連絡を忘れずに。

 そして、撮影隊も無事に到着し、エキストラ担当のスタッフの方が集合場所に迎えに来たら、まずは、点呼と服装チェックが行われます。連絡も入れずに欠けてしまうと、特に少人数の現場では支障が生じてしまうので、安易な気持ちで無断欠席はしないように。急遽、人数が足りない場合は、そこら辺の通行人を捕まえて現地調達する…というようなことはなくて(笑)、手の空いているスタッフが入ることもあります。このエキストラに入るスタッフのことを「内トラ」と言います。それ以外の方法としては、ボランティアエキストラの服装を変えることで、別人に仕立て上げる場合もあります。そのため、メガネやマフラーなどの小物や、ちょっとした替えの上着、スーツであれば替えネクタイなどを持参すると重宝します。自分は、ある現場で、途中で他の人とコートやカバンをチェンジしたこともあります。

 いよいよ撮影が始まります。ドラマの撮影では、概ね次のような流れで進められます。各用語の意味は、後段で解説します。
 「ドライ」⇒「テスト」⇒「本番」⇒「チェック」⇒「チェックOK」

 「ドライ」の前には、エキストラ担当やADから、その日撮影するシーンのシチュエーションや諸注意が伝達されますので、聞き漏らさないように。そして、スタッフの指示で、各エキストラが所定の位置に配置されます。配置の際は、併せて動きを指示されますので、用語等で分からないことがあれば、確認してみてください。ちなみに、「あなたはシャッターでいきます」と言われた場合、この「シャッター」とは、役者とカメラの間を横切るアングルのことを言います。
 「あなたは売れすぎているからなぁ」とスタッフが悩んでいたら、それはあなたがエキストラの常連であることの証です(笑)。主に同じ放送回の別のシーンで、大きく顔バレしてしまっているカットがあるので、ストーリーの繋がりの関係から、同一人が幽体離脱となってしまうとおかしいので、配置に悩んでいるのですね。

 初めてエキストラ現場に参加したとき、最初に聞きなれない言葉として出逢う「ドライ」とは、ドライリハーサルの略で、スタッフ一同が会して当日撮影するシーンの流れ全体を通しで一度確認するものです。これまで台本という文字だけの世界の中にあったものが、このドライによって、初めて具現化される訳です。通常、この段階からエキストラもスタッフの指示で配置されますが、俳優はスタッフが代役で務めることが多いです。これに基づいて、個々のカット割りやカメラアングルを決めたり、エキストラの配置等を修正していきます。

 続いて、「テスト」に移ります。ドライでは、その日撮影するシーンを通しで確認しましたが、テストでは、カットごとに細切れで撮影していきます。同じ演技を、カメラ位置を変えて撮影することも多々あります。ほんの数秒のワンシーンを撮るために、これだけの手間と時間がかかっているということを実感する瞬間です。10秒にも満たないシーンが、2~3時間かけて撮影されていきます。その積み重ねで、1本のドラマが出来上がっているのですね。
 テストでは、ドライで決められたアングルに実際にカメラがセッティングされ、通常は、俳優も参加して、本番前の最終確認が行われます。ここでエキストラの配置や演技の修正も行われながら、何度かテストを重ねていきます。ここでのポイントは、同じ動きを何度も繰り返しますので、自分のスタートの立ち位置をしっかり確認しておくことです。(確認しておかないと、後で同じ位置に戻れません)。「カット」の声がかかったら、素早くスタート位置に戻りましょう。そして、もう一つ大事なことは、特にスタッフから動き出しのタイミングについて指示が無い場合、「よーい」の声から動き始めることです。声が聞こえない場所の場合、スタッフが台本などを振って合図を出してくれます。流れとしては、「カメラ回りました。」⇒「テストいきます。」⇒「テスト。よーい!」⇒「スタート!!」の順番で声がかかりますので、「カメラ回りました。」と声がかかったら、心の準備をしておきましょう。後の本番でも同じ流れです。
 このとき良く使われる用語としては、マイクを持つ音声さんから「見切れてますか?」という言葉が飛び出しますが、「見切れ」とは、カメラに映ってはいけないマイクなどが入り込んでしまうことを言います。お休みのシーンで待機しているエキストラが入り込んでしまっている場合、「そこの人、見切れているからどいてください。」と言われてしまいます。シーンがお休みのエキストラは、別室で待機する場合もありますが、路上での撮影やすぐにカットを切り替えて行く場合、その場で撮影を見ることができます。お目当ての俳優さんがいる場合は、間近に見ることが出来るまたとない機会ですが、演技の邪魔になりますので、ガン見したい気持ちは抑えて、演じている俳優と目線を合わせないようにしましょう。もちろん、声援や歓声などはNGです。
 テストともなると、カメラ位置を確認すれば、自分が映りそうかそうではないかが、大体分かります(笑)。画面に入りそうともなると気合が入りますが、ボランティアエキストラは、あくまでも、俳優の皆さんに最高の演技を発揮してもらうための環境創りが一番の目的ですから、例え画面の外であっても、手を抜かずに一生懸命に与えられた役割を演じましょう。カメラに映りそうなときは、歩くスピードを調整したり、他の人と被らないような位置を歩いたり、カメラを意識して、ちょっとしたテクニックを使ったりもしますが、あまりにも露骨にやりすぎて、事前の指示と異なる動きをしてしまうとスタッフに怒られますので、やり過ぎに注意しましょう(笑)。
 その日の撮影だけにスポット参加する俳優がいる場合は、テストの冒頭に紹介が行われることもあります。紹介されたら、エキストラの皆さんも拍手で迎えてあげましょう。
 ちなみに、演技の合間の休み時間であっても、集中力を高めているキャストに雑談を話しかけることは御法度ですが、「おはようございます。」の挨拶(午後でも夜でも「おはようございます。」なのです・笑)や撮影終了後の「お疲れさまでした。」の挨拶は、礼儀として、スタッフやキャストの皆さんに、積極的に声をかけていきましょう。運が良ければ、あこがれの俳優さんから返事を返してもらえることも。

 俳優も含めての動きが固まったら、いよいよ「本番」です。本番では、路上のロケの場合は、通行人を一時止めるなどの措置が取られます。本番の声がかかると、現場は静寂とともに緊張感に包まれます。演技とは、違う自分を演じる訳ですから、一度目をつむって、気持ちのリセットをして集中力を高めると良いでしょう。スタートまでの掛け声の流れは、テストと同様です。「スタート」ではなく、「よーい!」の声がかかったら動き出しましょう。「カット」の声がかかるまでは、決して振り返ったりはせずに、演じ続けます。(まれに「カット」の声が聞こえず、路上を遥か先まで進んでしまうこともありますが・笑)。「カット」の声がかかったら、エキストラの皆さんは、素早くスタート位置に戻ります。本番では、「カット」の声のあとに「チェック中です」という合図が出されます。まさしくチェックとは、いま撮影したシーンがOKかどうかを現場のモニターで確認しているものです。かつてのフィルム撮影では出来なかった光景ですね。チェック中は、もう一度撮り直す場合が多々ありますので、エキストラの皆さんは、スタート位置で待機します。「チェックOKです。」の声がかかると、そのカットの撮影は、無事完了です。たまに「こちらです」という言葉とともに撮り直すことがありますが、これは、俳優のNGではなく、見切れていたり、予期せぬ音が入ってしまったりなど、スタッフ側のトラブルによる撮り直しのことを示します。私たちボランティアエキストラのNGも、「こちらです」に分類されますが、自分のせいでNGを出してしまうと、そのときの恐縮度はハンパないです。
 俳優の出演シーンの撮影が完了しても、「実景」と称して、エキストラだけが残されて風景等の撮影が続けられる場合もあります。

 その日の出演シーンが全て撮り終わると、エキストラ担当の指示で一同に集められ、参加記念品が渡されたら、その日のエキストラ出演は完了です。記念品は、ドラマの場合、台本を模したノートや番組オリジナルのクリアファイルが多いです。非売品のレアな物がほとんどですので、これを目当てにエキストラ参加をする人もいるぐらいです。


(エキストラの参加記念品)

 エキストラ担当の方と懇意になると、次のエキストラ募集の日程を、帰り際に直接確認している達人も見受けられます。

 以上、ボランティアエキストラの1日の流れを紹介させていただきました。
 違う自分を演じるということは、体力的にも精神的にも疲れるものですが、厳しさのなかにも、一つの作品を創り上げるという現場の一体感はサイコーで、一度体験すると「好きにならずにはいられない」こと間違いなしです。また、違う視点から作品を楽しむこともできるでしょう。
 機会がありましたら、そんな「幸福な現場」をぜひ体感してみてください☆

(りょう)  


2014年03月11日 Posted by ひがしざわ  at 08:00Comments(0)未来に紡ぐ