長岡百花繚乱の紀~『深谷シネマ・トークイベント』 レポート②

大林:「ありがたいですね。でも、それは私が、ではなくて、映画が、なのですね。映画というものは、嘘を言ったら終わるのです。もちろん、虚構ですから、嘘はつくのですよ。だけど、この嘘は、真を生む嘘なのです。真を生まなければ、単なる詐欺師ですからね。そこが分かれ目なのです。真を生まない詐欺師と、真を生む本当の人との違いは、どこにあるのかというと、良い映画になるか、ただの金儲けのためだけの映画になるのかの違いなのですね。私は、ふるさと映画作家として、そういう良い映画を産み出せるふるさとと付き合いたい、ということよりも、自然に引き寄せられていくのです。この深谷にも、引き寄せられて来て、初めは何だか分からなかったのですが、理由は後から分かるものなのですね。こういう場で、市長さんと話すチャンスというのは、なかなか無いことです。普段は、忙しいからとおっしゃるのですが、この小島市長さんは、ここにいらっしゃるから、いま忙しいのですね(笑)。それが大事なのです。普通は、私は忙しいから映画には行けませんと言うのですが、映画のために忙しいという、文化のために忙しいという、人の笑顔や喜びや正直な気持ちに忙しいという気持ちを持たない方が多いから、日本のまちはいまそう状態になっているのであって、この方は、そのために一番ここで忙しくしているという。」

 大林監督の言葉に、客席からは賛同の拍手が。

大林:「横に座っているからといって、私は人をおだてたりはしません(笑)。感動したのです。この前うかがったときに、メールの話がありましたよね。市長さんは、メールは受けますが、返事はメールではなくて、逢いに行って語ります、と。これは、現代文明の、現代機器の正しい使い方なのですよ。メールというのは、やはり現代の科学文明が生んだ素晴らしい技術ですが、科学文明というのは、やはりどこかに間違って使うと犯罪にも便利な物にもなるのです。この科学文明の危険さというのが、まさに、これを知恵として使えるのか、犯罪になってしまうのか、ということが問われている訳で、携帯電話は聞く分には凄く便利ですよね。色々な人から街のどんなところでも情報が入ってくる。だけれども、便利だからと言って、それで答えると喧嘩になってしまう。答えは逢いに行って、顔を見て話す。これには感服しました。」

長岡百花繚乱の紀~『深谷シネマ・トークイベント』 レポート②
(劇場公開に合わせて開催されたヒロシマ・ナガサキ原爆展)

市長:「ありがとうございます。やはり、人が逢わないと、それ以上の何かは産まれないのではないかと、いつも思っています。だから、行ける限りは、どこにでも行って、特に今回の映画を観て皆さんも感じたと思うのですが、長岡に行きたくなってしまいましたよね。本当に、ここから高速ですぐです。私もこの前に映画を観させていただいたのですが、おそらくあの映画を観て、感じるものは皆さん人それぞれだと思うのですが、それが学校なのかなと思うのです。だけれども、何かを感じても、人に「この映画がこうだったよ」と評論家ではないですので、「何しろ観よう」ということしか言えない。だから、人と逢うときも、映画を観るときも、全てを自分で飲み込んで、全部理解して、それから発信しないと、そのひと言が怖いなぁ、と思っています。」

長岡百花繚乱の紀~『深谷シネマ・トークイベント』 レポート②
(旧七ツ梅酒造)

大林:「市長さんが良い人というのは、それを選んだ市民の人たちが良い人ということですね(笑)。だから、私は、市長さんを褒めているのではなくて、皆さんを褒めているのね(笑)。いずれの里もそうです。長岡の市長さんも本当に立派な方でしたが、市長さんが一人で花火を上げるぞと言っても、花火は上がりませんよね。やはり、その市長さんを選んだ長岡市民の人たちがみんなで徹夜をして、花火を上げようという気持ちでひとつになったことが、この奇跡を生んだ訳ですから、やはり、官と民が一緒になっている里というのは、一番映画を撮るのに嬉しい所なのです。私は、結果として、ですけれども、このような日本の敗戦後の姿を撮り直そうという仕事を始めたのが21世紀になってからで、最初が大分県の臼杵というまちで『なごり雪』という映画を撮り始めたのですが、このときの臼杵の市長さんに、「この里では映画は撮らないでください。せっかく静かで穏やかな観光客も少なくて、みんな昔どおりの暮らしができているのに、監督が映画を撮ったら、観光客がいっぱいになるでしょう。それでは困るんです。」と言われました。映画を創るのを断られたのは初めてですよ(笑)。そうしましたらね、市長さんが市民と相談をして、「30年前から何も変わっていないこのまちを、監督が気に入ってくださったということは、貴重なことだから、映画を撮ってもらいましょう」と。「その代わり、映画を観て、観光客がどんなに来ても、そのために、古い建物を壊してレストランを造るとか、そういう馬鹿なことはしませんと市民と約束をしましたから」とおっしゃるのですね。これはやはり古い里を、文化を残そうと守られている里で、まさにこの深谷の精神と同じなのです。それで、この臼杵市長さんが、そのころの全国市長会の会長さんでした。今度は長岡に行って、長岡の市長さんと話をしていたら、ちょうどいま会長さんだそうですね。これは別に私がそういうところを選んで行っている訳ではなくてね(笑)。引き寄せられていくと、そういう立派な市長さんがいらっしゃる所に行っている。ということは、やはり、行政というものも、市民だけが良くても駄目。行政だけが良いということはありえない。なので、やはり行政と市民が一緒になって、市を育てるということは、皆さんが選んだ市長さんの背中を押して、市長さんに連れて行かれると、昔のガキ大将が、ガキ大将としての純粋な心をお持ちのまま、ベテランの少年となって、素晴らしい文化が産まれるのですね。」

長岡百花繚乱の紀~『深谷シネマ・トークイベント』 レポート②
(交流会の会場にもなった『円の庭』さん)

市長:「監督が行くところ行くところ、その街にみんな物語があるのかなと思います。だから、日本全国どの市でもどの町でも、やはり歴史があって、色々な人の物語があって、それを踏まえて、いま生きている自分たちが、この市を、この町を、この古里をどうしていくのかということを、色々と、行政も民間も、みんなで議論している中で、監督の感性で、深谷をそのように見ていただけているというのは凄く嬉しいですし、それをまた励みに皆でこの深谷の物語を紡いでいきたいと思います。」

長岡百花繚乱の紀~『深谷シネマ・トークイベント』 レポート②
(途中、会場の熱気に、冷房用の氷柱が溶けて倒れるハプニングも)

大林:「本当に、この深谷は映画の里としても、見事な見識のあるところです。映画というのは、事件を選べないのです。物語を選ぶのです。3・11も事件にしてはいけませんね。あれは、自然界と人間との悲しい物語。そこから人間が何を学ぶかという、賢い人間になるチャンスだと思います。」

市長:「3月11日のあの震災の日以降、深谷市でも様々なことがありました。私も市長として、様々な経験をさせてもらいました。今回の映画を観ても同じことなのですが、やはり、日本人が忘れかけていた何かがあるのだろう、と。また、これを、監督がおっしゃったように、やはり、きちっとした経験として、知恵として活かしていかなくてはいけないなということを、今でも考えています。そんな中、私は結構ポジティブな男で、やはり日本人、日本民族は凄いなというのと、映画を観ても思ったのですが、「国破れて山河あり」という。私も被災地に行って、色々な感覚があったのですが、最後はやはり山を見たりすると、何か生かされていて、自分たちがその中でどういう生き様で生きていかなくてはならないのか。本当に考えさせられました。」

長岡百花繚乱の紀~『深谷シネマ・トークイベント』 レポート②
(トークショー会場となった旧七ツ梅酒造東蔵)

(りょう)

つづく


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2013年01月08日 Posted byひがしざわ  at 08:00 │Comments(0)未来に紡ぐ

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