映画と路地と現代の道祖神たち  第二部 「幸せの種」④

会の初めに、2008年10月1日に発足したばかりの観光庁を代表して、
服部夏樹氏から挨拶がありました。

このたび、官民一体となって観光立国を強力に推し進めるため、
国土交通省の一部門から独立する形で観光庁が設立されました。
路地や横丁を観光資源として捉え、行って良かったと思われる街は、
住んでいても良い美しい街並みであり、「住んでよし、訪れてよし」を目指していきたい。
観光による“まちづくり”成功のポイントは、人であり、地域の人々のやる気です。
観光資源を有効に生かすアイデアや草の根の活動を、ぜひ地域から巻き起こしてください。
と述べられました。

続いて基調講演として、フリープロデューサーの茶谷幸治氏から
『まち歩きが観光を変える~長崎さるく博でわかったこと』と題して、
2004年から準備が進められた日本で初めての歩く博覧会『長崎さるく博』について紹介がありました。
ここで「さるく」とは「ぶらぶら歩く」という意味です。

映画と路地と現代の道祖神たち  第二部 「幸せの種」④
(茶谷幸治氏)

長崎では、90年の長崎旅博をピークに観光客数の減少が進み(10年間で130万人の減)、
このままでは長崎がつぶれると市民が強い危機感を抱くようになったそうです。
しかし、全国的にも名の知れた、グラバー園や平和公園、ハウステンボス(注:佐世保市)
をPRしても、客数は伸びなかったそうです。

そこで思いついたのが、長崎にはもっと他にも面白いものがあるのではないか。
→それを知ってもらえたら、お客さんが来てくれる。
→だけど、長崎の人も知らない。
→お客さんが来たら、ご案内をしなくてはならない。
そこで、『まち歩き』そして『さるく博』にたどり着いたそうです。

『まち歩き』で観光客が増加するのか?との問いに対しては、
いわゆる観光のプロは、100%ノーだった。
だけど、近年、観光の世界が様変わりしてきており、名所・旧跡・温泉+観光バスのような、
団体で旅行に行く時代ではなくなってきている。
様々な形のツーリズム、特に路地裏歩きやB級グルメなど、やっている人が楽しい、
市民の側から発生したツーリズムが根付いてきている。

現在、旅行客の約50%が、小説や映画など自分の趣味で旅行をしている人であるという統計もあり、
そういう人たちは自分の見たかった所だけを訪れていく。
そこには、ガイドブックと言ったものは存在しない。だからこそ、地元の人が案内するのが一番なのです。

そして、茶谷氏はこれを『生活観光』と名づけ、
「その土地の生活を見るのが面白い」。
観光とは国の光を見ること。「田舎で何もない所だけど、この景色が、これが良いよね」
-これこそが本当の観光の姿である。
この言葉を聞いたとき、大林宣彦監督も以前講演会で同じようなことをおっしゃられていたなぁと、
頭に浮かびました。

映画と路地と現代の道祖神たち  第二部 「幸せの種」④
(会場では、茶谷氏の著書も販売)

さて、このさるく博は、
遊さるく:地図を渡して自分で歩く
通さるく:ガイドと一緒に歩く(31テーマ、1隊15人+ガイド2人)
学さるく:町あそび
の3つで構成されています。

ここで大切なのは、ガイドをどう育てるかということ。
まず、ガイド教育として、従来は20日間の長崎歴史学の受講を義務付けていたものを、
座学1日・実地1日としたそうです。
これは、長崎の全てを知る必要はなく、それぞれが得意なコースを作ることに主眼を置いたからで、
そのため、全てのコースが2キロm以内・2時間以内で設定され、
詳しさより楽しさを追求しているそうです。

そして、各ガイドには、「あなたがニュース」だから、
自分の趣味・感覚で美味しいお店でも何でも観光客に伝えて良い、と教えているそうです。
これは、公的なガイドとしては、コペルニクス的転換である、とも。

さるく博期間中に育ったガイドは395人、現在は500人を超えているそう。
でも、まち歩きの理想は、会話やふれあいを考えるとガイド1人につき4人。
だから、最終目標は2,000人とのことです。

そして、ガイド付きまち歩きが、自分で歩いてくれる人を誘発し、
いまやプライベートなまち歩きの数は把握不能だそうです。

最終的には、723万人のまち歩き、宿泊客が前年比8.5%増、865億円の収益をあげ、
町をそのまま活用した、パビリオンなし・タレントなしの博覧会としては、
破格の数字であるそうです。
そして、お店に地元の人が来てくれるようになり、
売り上げが増加するという副次的な効果も生まれています。
また、箱モノの博覧会ではないので、その仕組みは今も残されているそうです。

成功する上でのポイントは、「動機・きっかけ」。そして、「自分のまちは、自分で楽しむこと」。
でも、これがなかなかいない。
さるく博では、まず長崎の人たちが、長崎を支え、楽しんだそう。
このことが「自分のまちを見直し、自分で育てる」ことにもつながるのです。

映画と路地と現代の道祖神たち  第二部 「幸せの種」④

そして、なぜ、いま「まち歩き」なのか、との問いかけに対しては、
①都市の変化
豊かなお年寄りの増加により、生産都市・消費都市から、
「住んでよかった。訪ねてよかった。来てよかった。」と思える“暮らしがい”・“生きがい”都市への変化。
お年寄りにとって、最後に頼れるものは自分の育った都市である。
②市民意識の変化
自分の住むまちに、目が向き始めた。都市と自分との間隔が変化し、
面白さ、楽しさが重要になってきた。“まち比べ”から“まち自慢”へ。
ここで、短歌が紹介され-
「遠くから来る朋あり長崎を 自慢たらたら歩かせており」
そのような都市では、公式な教科書に掲載された“歴史”よりも、
人生や生活の中での伝承や言い伝え、風習などの“稗史(はいし)”が重要になってくる。
③観光資源としてのまち歩き
観光を経済面から考えてはいけない。
これからは、物見遊山ではなく、生活のまちを見てまわる観光が主流となってくる。

そして、最後にさるく博を通じてわかったこと、として、
「自分たちで汗をかきながら、ここがこんなに素晴らしい所だということを、
外の人たちに伝える」これが、これからの観光の本道であり、長崎さるく博で実証されたことです。
と結ばれました。

続く

りょう


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2009年01月02日 Posted byひがしざわ  at 08:00 │Comments(2)未来に紡ぐ

この記事へのコメント
あけましておめでとうございます。
元旦に善光寺に初詣に行き帰りに喫茶店ロートレックに久しぶりに行き、今日記事にしました。映画転校生の黒板の落書きシーンがよみがえりました!こちらのブログと文中リンクさせていただきますがよろしいでしょうか。
映画&街角ウォッチングに興味があります。
今年もよろしくお願い致します。
Posted by みうみうBETTYみうみうBETTY at 2009年01月02日 08:58
みうみうBETTYさま、コメントありがとうございます。

こちらこそいつもみうみうBETTYさまのブログを見て、
「こんなお店があるんだー」とか「まちでこんな事やっているんだ!」
といろいろ貴重な情報を頂いています。
リンク、どうぞよろしくお願い致します。

私も元旦、善光寺にお参りに行きました。
すごい人出でしたね。
どうぞ本年もよろしくお願い致します。
Posted by ひがしざわ at 2009年01月02日 23:27
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