「星の降る里芦別映画学校」受け継がれる「ふるさと」への想い⑦
◇その7:「見直して気づく」こと、「覚悟を決める」こと。
鶴「両親宅からの帰り、タクシーの中で楽しい時を思い出して台詞を再現するシーンで
思いだしたのは、ドラマでご一緒させていただいた小林桂樹さんのこと。
若くしてお父様を亡くされたのですが、歳を重ねられてから
咳払いの声がお父様そっくりになったとおっしゃる。
毎朝<ん、ん!>と何度も声にして懐かしんでいるとか。心に残るお話です。
もういない人の気配、父親の血が流れていると自分の声で確認するんです。
<なぜ役者さんに?>と尋ねましたら、学生時代観たエジソンの映画だとか。
後の発明家エジソンですがなかなか研究の成果が上がらない。
部屋に帰って水差しの水を飲みながら物思いにふけり、飲みかけの水をすっと鉢植えの花にやる。
その一部始終を引きのアングルで撮っているだけで、
行き詰まっても優しさを失わない人物像がわかったそうです。」
宣「あの役者さんがかっこいい、あの役をやりたい、と思うだけならそこまでですが、
桂樹さんは台本にも書かれていない日常の小さな仕草まで目にとめています。
仕草の中の心の動きはあまり映らないので、
演出で<水をやってます!>とわざわざアップにもしますが、
そんな手法をあえてせず見せるのがいいですね。
ハセやん、ぜひ引きのシナリオを書いてください(笑)」
長「舞台は物理的にアップにできませんし、注目させるにはスポットを当てるくらいですからね。
(観客が各々好きなところを自由に楽しめるのがお芝居の面白さである反面、
演者側からはNGややり直しができない分、
一瞬たりとも油断できない真剣勝負のコワさもあるそうです。
もちろん観客の反応がダイレクトに伝わる醍醐味や舞台と客席が一緒になって世界を作る
一体感も魅力ですが。:しげぞー)」
宣「歌舞伎も観客がご贔屓の役者さんや役柄をアップにしてくれますね。
最近の映像はやたらアップを多用しますがちょっと上品さに欠けるかなと。
タクシーの運転手は一言も口を利かない。
あの役もキャスティングが難かった。邪魔にならず、でも面白くて悲しく印象に残る・・・
泣いているようで笑っているようなベンガルだ!と。
あの存在感が『北京的西瓜』主役につながります。
峰岸徹くんや松田洋治くん、高橋幸宏くんも忙しい中出てくれました。」
鶴「笹野高史さんも出ていましたね。」
宣「歯医者さん最高でしょう。いまや名優ですが、当時はヘンな人でした(笑)。
何か20年の歴史が映っていて面白いですね-と語っているうちに時間も近づいてきました。
さて、ツルちゃんは今どんなお仕事を?」
鶴「刑事ドラマの撮影中で、今月はほとんどかかりきりです。」
宣「ドラマ撮影中は本当に時間がないですよね。
忙しくて時間がないけれども、時々病気になってきてくれると。
内緒話ですよ、ははは(笑)。」(場内大爆笑、そして拍手)
鶴「ははは・・・<申し訳ありません!今日はちょっと重病なので!>と
大きな声で元気に挨拶してきました(笑)。」
宣「かつての出会いを大事に、恩義を感じてくれているのは本当に嬉しいことです。
そうそう、原作者というものは映画化にいろいろ想いがあって
山田さんはしばらく何もおっしゃらなかった。
何年か経って<良い映画をありがとう>とおっしゃり、ご自身の講演会でも上映くださいました。
<良さが分かるまでいくらか時間がかかりましたが、
鶴太郎さんはよかった。寿司も美味しそうでした。>と。
寿司屋のカット、シナリオにはなかったけれど、粋でイナセなツルちゃんの職人姿
をやはり見せておきたくて撮ったのを、目ざとく見つけてくださいました。
ハセやんのご予定はいかがですか。映画の脚本以外は舞台の演出ですか?」
長「基本的にはそうです。演出といえば、携帯電話が出て日常を描くのが難しくなりましたね。
山で遭難しても家に電話すればいい。がらりと演出が変わったのではないでしょうか。」
宣「僕が携帯電話を初めて映画に出したのが、『転校生さよならあなた』。
大林映画に携帯電話初登場!と驚かれる方もいました。
携帯電話の使い方は韓国TVドラマが一番上手いですね。
携帯電話なしでは成立しないドラマを書いています。ハセやんの世代でも難しいですか?」
長「携帯メールを打っている間は芝居にならない。
だからフィクションということにしてなるべくは使わないようにしていますが・・・。」
宣「尾道で何本映画を撮っても車が走っていないのと同じですね(笑)。
あの街には似合わない。そのことで逆に尾道が描けると思っています。」
長「必要なものとそうでないものを取捨選択するということですね。」
宣「これから芦別に足を運んでいろいろご覧になる中で、何を選んで何を捨てるかが大事です。
17年間かかわっている僕は情報過多で、覚悟の決めどころがなかった。
長谷川さんにお願いしてこれで覚悟が決まるぞと。
僕は南の生まれ・育ちで寒い国には旅人として来ます。
青森の長谷川さんと話していて<そうか!>と思ったことがあります。
<大林さん、南の人は家から普通に出るでしょう?
でも僕たち北の国の人間は決心して外に出るんですよ。>と。」
長「南の人は普通に下駄やサンダルで出るじゃないですか。
冬は特にですが僕たちはジャンバーを着て靴を履いて、よし!と結構決意して出ますね。」
宣「北国ならではの物語は、僕が書く恋物語や家族物語と違うだろうと。
(『はるか、ノスタルジィ』も小樽出身・山中恒さんの物語でしたね:しげぞー)
ただ妹に会ってくるよ~ではさまにならないけれど、
決意して出るなら凛としたドラマができそう、とわくわくしています。」
長「それが日常に染みついているので、北ではあまり音楽が生まれず、
むしろ文学や思想として形になります。
感覚的に音色を感じる土地柄と、文字や言葉で考える土地柄の違いでしょうか。
太宰は生涯津軽弁が抜けなかったそうです。
(そこで「つすますーず」になる本名の津島修治でなく、
訛らない発音の太宰治としたとか?:しげぞー)」
宣「僕も文学少年時代、太宰の小説を読んで<お殺せなさいますの>とか見つけて、え?と。」
長「彼の小説に何度も出てくるので、標準語と思っていたんでしょう。」
宣「あなたは私を殺せるの?を敬語でいうと、お殺せなさいますの?と。
その言葉に彼の書きたいことが詰まっています。
そういえば、芦別では独特な表現というか方言のようなものがあまり聞こえませんね。」
長「もとは山形、富山からの文化らしいのでほとんど分かりません。
北海道でも函館あたりでは、イントネーションが独特なところがあります。」
(続く)
しげぞー
鶴「両親宅からの帰り、タクシーの中で楽しい時を思い出して台詞を再現するシーンで
思いだしたのは、ドラマでご一緒させていただいた小林桂樹さんのこと。
若くしてお父様を亡くされたのですが、歳を重ねられてから
咳払いの声がお父様そっくりになったとおっしゃる。
毎朝<ん、ん!>と何度も声にして懐かしんでいるとか。心に残るお話です。
もういない人の気配、父親の血が流れていると自分の声で確認するんです。
<なぜ役者さんに?>と尋ねましたら、学生時代観たエジソンの映画だとか。
後の発明家エジソンですがなかなか研究の成果が上がらない。
部屋に帰って水差しの水を飲みながら物思いにふけり、飲みかけの水をすっと鉢植えの花にやる。
その一部始終を引きのアングルで撮っているだけで、
行き詰まっても優しさを失わない人物像がわかったそうです。」
宣「あの役者さんがかっこいい、あの役をやりたい、と思うだけならそこまでですが、
桂樹さんは台本にも書かれていない日常の小さな仕草まで目にとめています。
仕草の中の心の動きはあまり映らないので、
演出で<水をやってます!>とわざわざアップにもしますが、
そんな手法をあえてせず見せるのがいいですね。
ハセやん、ぜひ引きのシナリオを書いてください(笑)」
長「舞台は物理的にアップにできませんし、注目させるにはスポットを当てるくらいですからね。
(観客が各々好きなところを自由に楽しめるのがお芝居の面白さである反面、
演者側からはNGややり直しができない分、
一瞬たりとも油断できない真剣勝負のコワさもあるそうです。
もちろん観客の反応がダイレクトに伝わる醍醐味や舞台と客席が一緒になって世界を作る
一体感も魅力ですが。:しげぞー)」
宣「歌舞伎も観客がご贔屓の役者さんや役柄をアップにしてくれますね。
最近の映像はやたらアップを多用しますがちょっと上品さに欠けるかなと。
タクシーの運転手は一言も口を利かない。
あの役もキャスティングが難かった。邪魔にならず、でも面白くて悲しく印象に残る・・・
泣いているようで笑っているようなベンガルだ!と。
あの存在感が『北京的西瓜』主役につながります。
峰岸徹くんや松田洋治くん、高橋幸宏くんも忙しい中出てくれました。」
鶴「笹野高史さんも出ていましたね。」
宣「歯医者さん最高でしょう。いまや名優ですが、当時はヘンな人でした(笑)。
何か20年の歴史が映っていて面白いですね-と語っているうちに時間も近づいてきました。
さて、ツルちゃんは今どんなお仕事を?」
鶴「刑事ドラマの撮影中で、今月はほとんどかかりきりです。」
宣「ドラマ撮影中は本当に時間がないですよね。
忙しくて時間がないけれども、時々病気になってきてくれると。
内緒話ですよ、ははは(笑)。」(場内大爆笑、そして拍手)
鶴「ははは・・・<申し訳ありません!今日はちょっと重病なので!>と
大きな声で元気に挨拶してきました(笑)。」
宣「かつての出会いを大事に、恩義を感じてくれているのは本当に嬉しいことです。
そうそう、原作者というものは映画化にいろいろ想いがあって
山田さんはしばらく何もおっしゃらなかった。
何年か経って<良い映画をありがとう>とおっしゃり、ご自身の講演会でも上映くださいました。
<良さが分かるまでいくらか時間がかかりましたが、
鶴太郎さんはよかった。寿司も美味しそうでした。>と。
寿司屋のカット、シナリオにはなかったけれど、粋でイナセなツルちゃんの職人姿
をやはり見せておきたくて撮ったのを、目ざとく見つけてくださいました。
ハセやんのご予定はいかがですか。映画の脚本以外は舞台の演出ですか?」
長「基本的にはそうです。演出といえば、携帯電話が出て日常を描くのが難しくなりましたね。
山で遭難しても家に電話すればいい。がらりと演出が変わったのではないでしょうか。」
宣「僕が携帯電話を初めて映画に出したのが、『転校生さよならあなた』。
大林映画に携帯電話初登場!と驚かれる方もいました。
携帯電話の使い方は韓国TVドラマが一番上手いですね。
携帯電話なしでは成立しないドラマを書いています。ハセやんの世代でも難しいですか?」
長「携帯メールを打っている間は芝居にならない。
だからフィクションということにしてなるべくは使わないようにしていますが・・・。」
宣「尾道で何本映画を撮っても車が走っていないのと同じですね(笑)。
あの街には似合わない。そのことで逆に尾道が描けると思っています。」
長「必要なものとそうでないものを取捨選択するということですね。」
宣「これから芦別に足を運んでいろいろご覧になる中で、何を選んで何を捨てるかが大事です。
17年間かかわっている僕は情報過多で、覚悟の決めどころがなかった。
長谷川さんにお願いしてこれで覚悟が決まるぞと。
僕は南の生まれ・育ちで寒い国には旅人として来ます。
青森の長谷川さんと話していて<そうか!>と思ったことがあります。
<大林さん、南の人は家から普通に出るでしょう?
でも僕たち北の国の人間は決心して外に出るんですよ。>と。」
長「南の人は普通に下駄やサンダルで出るじゃないですか。
冬は特にですが僕たちはジャンバーを着て靴を履いて、よし!と結構決意して出ますね。」
宣「北国ならではの物語は、僕が書く恋物語や家族物語と違うだろうと。
(『はるか、ノスタルジィ』も小樽出身・山中恒さんの物語でしたね:しげぞー)
ただ妹に会ってくるよ~ではさまにならないけれど、
決意して出るなら凛としたドラマができそう、とわくわくしています。」
長「それが日常に染みついているので、北ではあまり音楽が生まれず、
むしろ文学や思想として形になります。
感覚的に音色を感じる土地柄と、文字や言葉で考える土地柄の違いでしょうか。
太宰は生涯津軽弁が抜けなかったそうです。
(そこで「つすますーず」になる本名の津島修治でなく、
訛らない発音の太宰治としたとか?:しげぞー)」
宣「僕も文学少年時代、太宰の小説を読んで<お殺せなさいますの>とか見つけて、え?と。」
長「彼の小説に何度も出てくるので、標準語と思っていたんでしょう。」
宣「あなたは私を殺せるの?を敬語でいうと、お殺せなさいますの?と。
その言葉に彼の書きたいことが詰まっています。
そういえば、芦別では独特な表現というか方言のようなものがあまり聞こえませんね。」
長「もとは山形、富山からの文化らしいのでほとんど分かりません。
北海道でも函館あたりでは、イントネーションが独特なところがあります。」
(続く)
しげぞー
第25回高崎映画祭の授賞式
ららヨコハマ映画祭
ミューズ シネマ・セレクション 特別対談と落語の夜
2月17日...山村浩二自選傑作集他上映
2011年第25回高崎映画祭
アニメーションの世界 動く絵のコミュニケーション力
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2010年01月28日 Posted byひがしざわ at 08:00 │Comments(0) │各地映画祭巡り
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