お帰りなさい!~映画『シグナル』凱旋上映会レポート⑥

 そして、トークショーは、会場内からの質問コーナーへと移ります。
 初めの質問が、劇中登場する千曲川のシーンについて、「あんなに堂々と水が流れている風景は、初めて見ましたが、何かあったのですか。」という質問です。
 この質問に対し、谷口監督から、
 「あの川での撮影の時に大雨が降ってしまったのですね。もちろん、撮ったときは、雨が止んでいた日に撮影をしているのですけれども、どうしても前の日までにいっぱい雨が降ってしまったので、川は増水していますし、僕らもどうしようかと思ったのですが、その日は陽も射して、良い塩梅だったので、「これでも良い画が撮れるから」とスタッフの人が言ってくれたので、「これは撮ろう」ということで、撮りました。」


(千曲川で撮影中)

 りょうも、この千曲川の野外ロケにエキストラとして参加しましたが、撮影場所が土手の内側ということで、予定日の初日は、降雨による増水を考慮して、中止となりました。予定されていたシーンが、100人以上のエキストラを動員した大規模ロケだったので、中止に伴う日程変更など、スタッフの皆さんは大変だったと思います。


(劇中にも登場した上映スケジュール表)

 続いて、長峰池の特徴的なレイジの家についての質問があり、稲葉ラインプロデューサーから、ロケに至るまでのエピソードが語られます。
 「あのロケ物件は、業界用語で物件と言うのですが、地元の方の繋がりでご紹介をいただきまして、個人宅の別荘なのですね。偶然の人の繋がりで見つけられた物件で、あのような建物を制作部の花岡さんと言う方が、ロケーションの場所を探す一番のトップだったのですが、彼女が見つけてきて、監督にプレゼンテーションして、監督が気に入って撮影ということになるのですが、ロケの醍醐味は、やはりそういう出逢いから、思わぬこういう副産物というか、最高の画のスパイスが見つけられちゃうというのが嬉しいことですし、最高な一番の想い出ですね。あの物件は、僕は気に入っています。」
 また、谷口監督から、
 「あの物件は、レイジというちょっとユニークなキャラクターを凄く表してくれていると思っています。先ほどおっしゃったように、劇中登場する水辺が川と湖ということで、ルカと恵介のふたりを表現するには、次々と水が流れている川と言うのはふたりのイメージで、レイジというのは、ちょっとああいう人なので、湖の水はずっと静止したままどこに流れることもなく静かにそのままそこにあり続けるということで、キャラクターを画くうえで、長峰池の存在が、ひとつの良いところに左右するかなと思ったのがありました。見つけたのは花岡ですけれども、結果的にそういう風になれて良かったなと思っています。」


(来場者に配布されたロケ地マップ)

 続いて、三根さんに、「上越での撮影で、一番印象に残ったことは何だったでしょうか。」という質問です。
 「地元のお母さん方が、毎日ご飯を作ってくれて、お昼と夜に、おにぎりだったり、カレーの日もありました。それが凄く美味しくて、温かいご飯を毎日食べることが出来て、それもやはり毎日の力になっていたというか、凄く地元の皆さんには感謝しています。」
 「ロケ地での食事は、結構楽しみにしているんだよね」と付け加える三浦さん。
 「そこは、プロデューサーの腕の見せ所ですね。」と、笑いを誘う司会の荒井さんでした。



 そして、銀映館での楽しい時間もあっという間に過ぎ、トークショーも終わりの時間を迎えます。最後に、いま取り組んでいることや、これからの抱負をと言うことで、まずは谷口監督から、
 「『シグナル』の公開の後、ついこの間完成したばかりなのですが、日本の昭和の文豪たちの短編小説をオムニバスで映画化したもので、6本の短編の中の1本をやっています。僕は放浪記で有名な林芙美子さんの名作を担当させてもらいまして、『幸福の彼方』という作品なのですが、30分少々の短編の作品を創りました。他にも、宮沢賢治の『注文の多い料理店』ですとか、坂口安吾の『握った手』という小説だったり、永井荷風の短編小説だったり、それをいま人気の山下監督ですとか熊切監督とか、そういう若手の気鋭の監督が集まりまして、僕もそこに入れてもらったのですが、それぞれ3本3本でまとめた2時間程度のものが、そんなに公開規模は大きくないのですが、9月29日から角川系列の映画館でかかりますので、ちょっと気にしていただいて、東京や大阪では間違いなく上映されますので、何かのついでで訪れたときに気にかけていただければ嬉しいです。アルファベットで『BUNGO』とインターネットで引っ張ると情報が出てくると思います。」


(「BUNGO~ささやかな欲望」のホームページはこちらから)

 「映画は、俳優さんだったり、スタッフだったり、人との物づくりで、何と言っても、人につきるなぁとつくづく思っているのですが、完成した後に、こうやってお客さんに見てもらえているというのも人との出逢いで、それが、何よりも一番お世話になった劇場で、こんな風に温かく笑顔で迎えられることは、こんなに幸せなことはなくて、出逢えてよかったなと、本当につくづく思っています。ありがとうございます。それと、やはり、こういう歴史のある場所を撮ったときに、ここでは、これまでたくさんの何千何本という映画がかかってきたでしょうし、その1本1本に、映画人としての魂が込められているものがあって、まだまだ自分たちはそんなに大した者だと思っている訳ではないのですが、1本の映画には違いがないし、その積み上げられた先に自分たちがいることには違いがないので、何かそのことを、こういう場所で撮らせていただくことで、そういう畏れと言うか、そういう場所に自分たちもいるんだということを、あらためて実感して、ちょっと気が引き締まるというか、でも、凄く特別な経験をさせていただいたなぁ、と思っていて、このご時世、映画創りの状況も変わってきて、簡単ではないことも多いのですけれども、やはり、ちゃんと映画を頑張ろうと思いました。本当にありがとうございます。」


(ロビーのパネルにサインを記すスタッフたち)



 続いて、三根梓さんに、「三根さんは、この世界館のあそこの立てつけの悪いドアを開けて、一歩踏み出して、あのプラットホームのような通路を歩いて旅立ち、デビューしました。これからの抱負、聞かせてください。」と荒井さん。
 「まだまだ演技の勉強を続けて、特定の色がつかない、演技に幅のある女優になれるように頑張りたいと思っていますし、たくさんの方々に愛していただけるような女優になれるように、これからももっと努力を続けていきたいと思います。本日は、足をお運びいただき、本当にありがとうございます。」
 と力強いメッセージをいただきました。谷口監督作品出演をきっかけに大きくブレイクした、先輩の仲里依紗さんや桐谷美玲さんのように、三根梓さんも映画女優として羽ばたいてほしいですね。


(世界館通路)

 最後に、この日の司会進行を務められた上越映画鑑賞会代表の荒井さんから、
 「私たち、映画ファンに何ができるかを考えたときに、やはり、こういった輝きのある映画、光っているものを持っている映画を、きちんと評価をして、お金を払って映画を観る。それで、DVDが出たら、DVDもちゃんと買う。そういったことで、実は、ここにいるスタッフの皆さんが、また次の新しい作品にトライできるし、役者さんは新しい作品に声がかかるということで、私たち観客は、そういった形で、映画創りというものを支えていきたいなと思います。皆さん、どうでしょうか。」
 と訴えると、場内からは、賛同の大拍手が。

 名残惜しい中、場内からの盛大な拍手に送られて、三根梓さん、谷口監督、スタッフの皆さんが、退場されます。
 退場する三根さんには、「頑張ってください。」という声援も。


(映写窓から)

(りょう)

つづく  


2012年08月31日 Posted by ひがしざわ  at 08:00Comments(0)未来に紡ぐ