第18回星の降る里芦別映画学校ふるさとへの想いはどこまでも7

第18回星の降る里芦別映画学校~「ふるさと」への想いはどこまでも~

◇その7:家、家族・・・人間関係。

千「目を閉じてスクリーンの向こうに監督の顔が見えるようになると、
その監督の作品になったような気がします。
妹分だったので特別な感情が入る部分はあるけれど、
1本の映画としても確実に呉美保という1人の作家が見えたなと。

それにあの家でないとダメ。マンションではがらっと違うものになるなぁと。
縁側があって、庭の向こうに大家さんの家が見えてという昔ながらの家でないと成立しない。」

長「普通の作品と違うのは、家の間取りがつかみづらいこと(笑)。
カメラを振って位置関係を見せずにいきなり次の部屋のカットが出てくる手法が面白いなと思いました。」

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呉「私自身、説明が好きではないんです。引きの画から入って徐々にディテール、
という定石はもちろんあると思いますが、あまり気にせず、登場人物をしっかり描けば引いた画などなくても・・・
なんて言ったら先生方に怒られるかも(笑)。」

は「人と人の距離が離れがちな現代ですが、お互いがとても近い。
陽子と月子ばかりか研ちゃん、サクさん、村上先生も家族の温もりが感じられる。
高齢者が亡くなったのに年金欲しさに肉親が隠す最近の事件など、希薄な人間関係への批判に感じられましたね。 

彼女がパニック障害や過呼吸で電車に乗れないのも原因は職場でのパワハラだし、
そのあたりが現代社会への問題提起のようで。
そんななかのおまじない<鶴亀、鶴亀>って(笑)。」

呉「<鶴亀>は原作にもありましたが、最後にお母さんが言うというのは私のアレンジです。
素敵ですよね、現代社会の深い問題がこんな一言で解決するなんて(笑)。」

長「月子が引きこもる理由、駐輪場のシーンだけで後は一切説明ないけれどすごく説得力がある。
あんな唐突で理不尽な暴力ってないですよね。直接触れられるよりもむしろ怖い。」

呉「ああいうシーンは中途半端にするとその後しらけてしまうので、どんな表現がよいか考えました。
暴力を直接振るわれるのか、そうでないのか・・・。」

は「余計な説明がない分、かえって行間のようなものが読める。」

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千「ストーカー&パワハラのエリート上司は、自転車を散々蹴る間、指一本触れない。
でも去り際にしっかり鞄を持ってゆく。あぁ彼は会社で生き延びる人間なんだ・・・と
ぞっとしました。直接蹴ったらOUTだけれど鞄を持ってゆく冷静さ?を最後まで持って
いる、という一瞬の描写で逆に怖さが増幅する。説明なしであのコマで分かってしまう。
上手くなったね~(笑)。」

長「月子がハチを散歩させていた研二とすれ違う時に、後ろから電車がさっと追い越して
ゆくシーンがありましたが、その時の表情がよかった。どのように演技の指示を?」

呉「宮崎さんはキャリアもセンスもあるので、具体的な顔をというより、なぜここにこう
いう気持ちで立っているか、台本に書かれていない背景を説明するだけで十分でした。」

千「大ベテランの大竹さんとはどのようにコミュニケーションを?」

呉「忘れられないエピソードがあるんです。大竹さんは私より年上で、母であり、映画の
世界でもキャリアがあって私よりずっと経験値がある。<実生活でも母である大竹さん
はどうお考えですか?>と聞いたところ<監督の作品なので監督の母親像で>と(笑)。」

長「言葉の問題、関西弁はどうされたんですか。」

呉「ネイティブの大阪弁を話せる役者さんという選択肢もありましたが、作品を全国で観てもらうとなると
どうしてもあのキャスティングにしたくて。
でも方言も中途半端にはしたくない、と。関西の方は厳しくて、
少しでも下手な関西弁で違和感を覚えると引いてしまう。
関西にも方言があるので何人もオーディションして自分がしっくりくる方言指導の方にお願いしました。」

は「作品を観ながら、あれはどこの駅だろう、と。京阪線ですよね(笑)」

呉「そうです。撮影したのは牧野駅。枚方の近くですね。」

は「大阪でも茨木や高槻あたり(大阪-京都間)だと同じ駅の利用者でも大阪寄りに
住んでいる人と京都寄りの人で言葉が違う。アクセントはそれほど微妙なんですよね。」

呉「そうなんです。どこが舞台か訊かれたら、特定の場所は決めておらず、ニュートラルな<関西>です、としています。」

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(京阪本線はレール幅も広く、通過列車はいずれもスピードに乗っています:別の駅、東福寺にて。)

千「衣装も母娘対照的。陽子がいつも明るい色の服を着ているのに、月子はトラブルを抱えたりしていて青い服。
表裏一体、潮の干満のようにどちらがいなくてもバランスが崩れるんだろうなと。まさに太陽と月。」

長「全編、常に心地よく裏切られる展開がいい。
絵沢萌子さん<大家のサクさん。大林作品『風の歌が聴きたい』で産婦人科のお世話係としてご出演:しげぞー>
など、絶対近所の口うるさいおばちゃんと思ったら、面倒見がいい、気のいい大家さん。
裏切られて、でも心地よい。
それから作品のラストまでハチ<陽子・月子の飼っている真っ黒なパグ犬>の声という
か鼻息が聞こえますが、ハチ目線でみた物語、ハチが語り部、という設定でも?」

呉「特にそういうことはなくオファーしたからに彼なりのポジションを用意しようと(笑)。」

(続く)

しげぞー



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2011年01月18日 Posted byひがしざわ  at 08:00 │Comments(0)各地映画祭巡り

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